M・A Recordings のレコード取り扱い開始を記念して、最初に発売するレコード3タイトルを同時にご注文いただいたお客様先着25名様には、“Será una Noche 45RPM”のジャケットにタッド・ガーフィンクルのサインを入れた特別版をお届けいたします。ぜひこの機会にM・A Recordingsの素晴らしい演奏、録音を知っていただければと思います。
こんな幸せな日がやってこようとは。私がM・A Recordingsを知ったのはもう30年近く前になります。その頃、ジャズピアノが好きだった私はブルガリア出身のピアニスト、ミルチョ・レヴィエフの2枚のソロアルバム"ブルガリアン・ピアノ・ブルース(M012A)と”プロヴディフから来た男(M018A)”にハマっていました。この2枚のアルバムはM・A Recordingsから発売されていました。そして、創立者でありエンジニアのタッド・ガーフィンクルがピアノを演奏するアルバム「祈・望・幻・想 -PRAYERS WISHES ILLUSIONS- (M001A)」を発見したのです。お会いした事もないのに人柄の素晴らしさを確信できる爽やで忘れられないメロディ。そしてミルチョのアルバムでも感じていたオーディオ的にも素晴らしい録音。さらにカヴァージャケットのセンスの良さ。私はM・A Recordingsとタッドさんの大ファンになりました。それから30年近くたち、ミュンヘンショウで見かけたタッドさんにご挨拶をする中で、レコードの日本代理店がない事を知りました。こんなにもったいない事はありません。お話させていただいた結果タクトシュトックでレコードの取り扱いをさせていただける事になりました。M・A Recordings素晴らしい演奏と録音の数々を日本のお客様にご紹介できる事を心から幸せに思います。
M・A Recordingsは1988年に日本で設立されました。オーナーであり、プロデューサー兼エンジニアであるTodd Garfinkle (タッド・ガーフィンクル)はカリフォルニア出身で、長い間東京に住んでいます。上記したように彼自身ピアニストであり、録音するアーティスト達の気持がわかるという事が録音と演奏の素晴らしさに繋がっているのは間違いありません。彼が惚れ込んだアーティストの為であれば、世界中どこにでも出かけていき録音を行います。そして、その際スタジオは基本使用しません。M・Aとは、人間の「間」、空間の「間」、そして音と音の「間」を意味しており、全ての作品でその意図を共有しています。
M・A Recordingsは、独創性豊かなアコースティック音楽を、修道院や教会といった自然な音響空間で、たった2本の特殊な無指向性マイクを使ったワンポイント録音で捉えることをポリシーとしたレーベルです。電子楽器や電気的な増幅(アンプ)は使用されず、音量調整は全てミュージシャンのみに託されます。観客こそいませんが演奏はすべてライブ録音で、録音後にバランス調整やイコライザー、コンプレッサーを使用する事はありません。その場に発生した自然な音をそのままピュアに捉え、それをそのままリスナーに届けるのです。
近年はLPも積極的にリリースしていますが、自ら2台のORB製Disc Flattenerで1枚3-4時間かけてレコード盤を修正し、自社オリジナルの日本製インナースリーブに収納して出荷する徹底ぶりからも、アーティストとお客様のために、少しでも良い状態のレコードをお届けしたいという、タッドさんの想いと人柄が伝わるのではないでしょうか。
M・A Recordings屈指の人気バンドであるアルゼンチンのSerá una Noche(セラ・ウナ・ノーチェ)。彼らの過去のレコーディングから厳選された楽曲を、Resur Rec Boutique Vinyl Labがプレスした最新の「Transparent Brown」カーボンフリー190gエディションで発売。この美しいブラウン色のエクステンデッド・プレイ45rpm 190 gディスクは、「Será una Noche」の最初の96kHz録音からのベストトラックの3曲を収録し、50年以上第一線で活躍しているレン・ホロウィッツによって伝説的な1950年製スカリー旋盤とウェストレックス・カッターヘッドを使用してカッティングされました。
「Sera una Noche 45rpm」と題されたこのアルバムには、ガルデルの「Malena」の2つのバージョンがA面に収録されており、1曲はペドロ・アスナールがボーカルを担当したバージョン(7分38秒)、もう1曲は心にすっと染み入るインストゥルメンタル・トラック(5分06秒)です。B面には、首都ブエノスアイレスから約2時間のアルゼンチンの田舎にある廃墟となったガンダラ修道院教会にて録音された、彼らの「最高傑作」と呼び声高い「Nublado」(11分22秒)が収録されています。昔から聴いていた彼らの演奏をレコードで聴く喜び。わたしにとっては、お宝の1枚と言っても過言ではありません。M・Aのアルバムをまだ聴いた事がない人にとっても、最初の1枚としておすすめです。
兵庫県生まれのピアニスト伊藤 栄麻さんの1994年に松本のハーモニーホールで収録したゴルトベルク変奏曲。使用楽器は1903年製のスタインウェイです。あまりに有名な曲なので今更と思う方もいるかもしれませんが、この演奏はゴルトベルク好きにこそ聴いてほしい演奏です。伊藤 栄麻さんの演奏は、グールドのように情熱的でも、テューレックのようにバッハへの愛が音からにじみ出てくるような演奏でもないのですが、タッチが繊細で美しく大げさな事はせずにただただ純粋に音楽の素晴らしさを伝える感銘的なもので、そこにピアノの直接音だけでなく、会場の響きや空気感をも収録しきったようなタッドさんの録音が加わるのですからたまりません。録音芸術とはまさにこんな録音のことを言うのではないでしょうか。しかもM・Aとしては珍しいアナログ録音。M・Aのジャケットの裏面には他のレーベル以上に録音時の情報が詳しく掲載されているのもファンには嬉しいところです。残響時間約2秒という絶妙なハーモニーホールで奏でられるヴィンテージ・スタインウェイ。どうぞ、ご自宅で再現してください。
1トラック目が終わった時、その残響音の素晴らしさで動けなくなる、なんて事はなかなかある事ではありません。ボスニア出身のギタリストである、ミロスラフ・タディッチと、北マケドニア出身でバルカン音楽とジャズ・ロックの融合に貢献してきたカリスマ的ギタリスト、ヴラスコ・ステファノスキーの共演。タイトルとなった、「クルシェヴォ」はマケドニア中部にある町の名前であり、録音はクルシェヴォに1970年代半ばのオスマン帝国に反乱を起こしたマケドニア人を記念するために作られたイリンデン記念碑の中で行われました。
オスマン帝国の支配下でこの地域に存在した多くの民族伝統音楽が影響しあって誕生したと言われるバルカン音楽を、二人の偉大なギタリストが鮮烈に披露します。Side Aの1曲目、伝統舞踊「Gajdarsko Oro」が始まった瞬間、一気に二人のテクニックの応酬に心(と耳)は鷲掴みにされる事でしょう。ヴラトコのサクラナイロン弦ギターによる軽快なソロと、ミロスラフのラミレス・クラシックギターが激しくメロディを交互に積み上げ、熱狂的なクライマックスを迎えたその時。最後の一撃の後に待っているのは、イリンデン記念碑の石でできた壁に幾重にも重なり響き渡る残響音。良好なオーディオシステムを持っている事に最高の喜びを感じる瞬間が待っています。ここまで演奏と録音の素晴らしさが融合しているアルバムに出会えるのは、M・A Recodings以外ではめったにある事ではありません。
この1トラック目だけでも名盤だ!と唸る事になるのですが、その後の曲も本当にすばらしく、特に最後のトラック「Ajde Dali Znaes Pametic Milice」での、ヴラトコが演奏するドブロとミロスラフがギターを叩く打音が空間で混ざり合って広がる印象的な響き。タッドさんの録音なしでは再現できないと確信する事でしょう。今後何年にも渡って愛聴盤となるであろう傑作アルバムです。
一瞬なんのデザインかわからないジャケットの表裏ですが、それがイリンデン記念碑の外観と、その中から天井を見上げたものだと気づいた時、歴史を少し調べた後に、もう一度、最初からこのアルバムを聴こうと思うに違いありません。